はじめに:「厳しくしないと、子どもはダメになる」という幻想
「甘やかさず、厳しく育てなさい」。そんな言葉が今も日本中に響いている。
けれど、“厳しさ”の名のもとに行われるのが、恐怖での支配、怒鳴り、押さえつけであったなら。
それは教育ではなく、精神的暴力だ。
米国の研究者 Kaitlin Lank(2024)は、支配的・抑圧的な親のもとで育った子どもが、いかにして非行や反社会的行動に傾いていくのかを明らかにした。
この研究は、子ども時代に経験する「逆境的小児期体験(ACE)」と呼ばれる出来事が、人生全体にどれほど深刻な影響を与えるかを示している。

恐怖支配の教育が、いかに精神的悪影響をもたらすか研究されたんだ!
ACE(逆境的小児期体験)とは何か?
ACE(Adverse Childhood Experiences)は、児童虐待、ネグレクト、家庭内暴力、心理的支配など、子ども時代に経験する深刻なストレス体験を指す。
研究によれば、ACEスコアが高い人ほど、うつ、自傷、薬物依存、犯罪といった行動に走るリスクが飛躍的に高まる。
Lankの研究は、その中でも特に”親の支配的な関わり方=「従わせる教育」”が、深い心理的傷と行動上の問題を引き起こすメカニズムに焦点を当てている。
支配的育児は「反抗の種」を植えつける
Lank(2024)は、18歳以上の男女101名を対象に、ACEスコアと非行歴を調査した。その結果、次のような明確な相関が見つかった。
- ACEスコアが高いほど、非行傾向が有意に増加
- 特に「心理的虐待(emotional abuse)」「感情的無視(emotional neglect)」が強い予測因子
- 支配的な親のもとで育った子は、怒りのコントロールが困難で、自己破壊的傾向を持つ
親が「正しさ」を押し付け続けると、子どもは「聞き分けの良い子」に見えるかもしれない。
だが実際には、怒りと無力感を内面に押し込めている。
その感情は、やがて爆発する。

いい子そうに見えても内心ではものすごい怒りと無力感を溜め込んでいる可能性があるよ!
教育と支配は違う
「怒鳴ってでもわからせなきゃダメだ」
「黙って言うことを聞け」
そんな言葉が飛び交う教育現場や家庭。だが、“怖いから従っている”のは、理解でも納得でもない。
子どもに必要なのは、ルール以上に信頼と尊重だ。
心理学的に見ても、オーソラティブ(指導型)育児――つまり、温かさと境界の両立が最も効果的とされている。

恐怖支配は信頼を生まない。いつか力関係が逆転したら反逆が始まるかも!?
支配は短期的成果を生むが、長期的には関係を壊す
親や教師が支配で得られるのは「短期的な従順」にすぎない。
長期的には、以下のような深刻な結果が残る:
- 子どもの自尊心の低下
- 反抗的・暴力的な行動の増加
- 信頼関係の破壊
- 自己否定的スキーマ(自分には価値がない等)の形成
子どもが問題を起こすたびに「甘やかしたからだ」と責める前に、
「支配したせいで心を壊したのでは?」と問い直す必要がある。
対話が人を育てる
教育とは、人を“黙らせる”ことではなく、“話せるようにする”こと。
怒鳴る代わりに問いかける。脅す代わりに説明する。
それが「支配」から「対話」への転換だ。
信頼されて育った子どもは、自ら考え、自ら選び、他人も尊重できる人に育つ。
それこそが、暴力や逸脱とは無縁の、成熟した社会人としての基盤になる。
結び:支配ではなく、支援を
もし、あなたが子どもや部下、後輩などの「育成」に関わる立場にあるなら、
今一度こう自問してほしい。
「私は恐怖で従わせていないか?」
「この子は、“理解して”動いているか、それとも“怯えて”いるのか?」
教育は、支配の道具ではない。
怒鳴らずとも、人は育つ。
恐怖で沈黙を強いる社会から、対話で人を育てる社会へ。
いま、変えるべきは「声の大きさ」ではなく、「言葉のあり方」だ。

長期的に明るい未来を築き上げていくなら、心から繋がる信頼を大事にしよう!
読んでくれてありがとう!
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出典
Lank, K. (2024). Adverse Childhood Experiences and Effects on Delinquency.
DigitalCommons@CSP.
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