はじめに:なぜ「やめられないのか」は個人の弱さではない
「覚醒剤はやめられない」──これはただの偏見ではありません。
実際、強い意志を持ちながらも何度も再使用に陥る人が多く、再犯率の高さがそれを物語っています。
だがその一方で、同じような依存状態から立ち直り、長期にわたって断薬を維持する人も確かに存在します。
では、両者の違いはどこにあるのでしょうか?
今回紹介する論文は、その問いに科学的に迫った貴重な実証研究です。

覚醒剤をやめられる人とやめられない人の違いを研究したんだ!
「禁断期間の長さ」が人を変える
2013年、PLOS ONE に掲載された中国の研究チームによる論文
「Effects of Length of Abstinence on Decision-Making and Craving in Methamphetamine Abusers」は、
183名のメタンフェタミン依存者を対象に、断薬の長さが脳機能・衝動・欲求にどのような影響を与えるかを調査しました。
調査対象は、断薬期間6日〜1年の範囲で分類され、以下のような観点から評価されました:
・生理的反応(心拍・血圧など)
・意思決定力(Iowa Gambling Task)
・抑うつ、不安、衝動性
・欲求(craving)の強さ
結論①:やめられる人は「判断力」が回復している
この研究で最も注目されたのが、意思決定の改善です。
断薬から日が浅い人ほど「衝動的で短期的な損得判断」に流されやすい傾向がありました。
しかし、断薬6か月・1年のグループでは、損を避け、得を選ぶ判断力が回復していることが明らかに。
この差は、脳の前頭前野(意思決定をつかさどる領域)の働きに関連しており、「やめられる人」は脳の回復が進んでいる可能性が高いのです。
結論②:「3ヶ月」が最大の再発ポイント
興味深いのは、「cue(刺激)」によって喚起される渇望(craving)の強さです。
これは、たとえば:
- 覚醒剤仲間との接触
- 特定の音・匂い・場所
- ストレスや不安といった感情状態
といった刺激によって引き起こされるものです。
実験の結果、断薬3か月目にその反応がピークを迎えることが判明しました。
📌 やめたい気持ちはあるが、3ヶ月目で「再び使いたい衝動」が最も強まる
→ この「壁」を越えられるかどうかが分岐点になるのです。

断薬3か月目が大きな壁みたいだね!ここを超えられるか超えられないかが鍵みたい!
結論③:感情の波と衝動に耐えられるか
断薬初期には、誰もが強い抑うつ・不安・集中力低下を経験します。
しかし、やめられる人たちは時間と共にこれらの症状が緩やかに改善していきました。
一方、やめられない人は、
- 衝動性の高さが持続し
- ストレスや負の感情に抗えず
- 欲求に飲まれる形で再発に至る
というパターンが多く見られました。

断薬初期のストレスや負の感情に耐えることが出来れば希望は見えるんだね!
まとめ:やめられる人とやめられない人の差とは?
特徴 | やめられる人 | やめられない人 |
---|---|---|
意思決定 | 長期的に考えられる | 短期の快楽に流されやすい |
渇望(craving) | 時間とともに減退、耐性あり | cueに強く反応しやすい |
感情状態 | 抑うつ・衝動が軽減していく | 改善せず不安定が持続 |
自己制御 | 比較的高く、行動を抑えられる | 衝動に負けて再発しやすい |

長期的に人生を良くしていくという目線が必要なのかもしれない!
再発を防ぐにはどうすべきか?
研究者たちは、単なる「意志の力」だけでは断薬の継続は難しいと指摘しています。
必要なのは以下のような多面的な支援です:
・認知行動療法(CBT)などを通じた思考・行動パターンの修正
・「3ヶ月の壁」を想定した relapse prevention プログラム
・支援者・家族・居場所といった回復を支える環境

ちゃんとしたプロセスを踏んでいけば断薬は可能なんだ!
皆も覚醒剤なんかに負けない人生を手に入れよう!
読んでくれてありがとう!
▼おすすめ記事
依存が進行すると、なぜ現実感を失い、妄想や攻撃性、人格の崩壊が起こるのか。脳内の変化や神経伝達の異常をもとに、覚醒剤が心をむしばむメカニズムをわかりやすく解説しています。心の破壊がどのように始まるのか、その実態を知るための必読記事です。
▶覚醒剤が引き起こす妄想・人格崩壊のメカニズム──脳と心をむしばむ依存の実態
参考文献
Wang, G., et al. (2013). Effects of Length of Abstinence on Decision-Making and Craving in Methamphetamine Abusers. PLOS ONE.
論文PDFリンク
コメント